患者のストーリー~こん睡状態からの回復・T君~その3

頭部に重傷の怪我を負い、こん睡状態から10ヶ月で目覚ましい回復を見せているT君。

外国人スタッフが英語で話しかけると、最近では「Before I can speak English but now I cannot speak English(以前は英語が話せましたが、今は英語が話せません)」と英語で返答してきます!どうも自分の英語力に自信がないようです。毎日、事務員のSarimと一緒に、英語のテキストを見ながら単語の発音を練習しています。いつも笑顔で対応してくれるT君ですが、心の中ではもしかしたら、もっと回復したいという焦りや葛藤があるのかもしれません。以前はできた注射などの処置が、どうして今はできないんだろう?と聞かれたスタッフもいます。きっと、記憶の中の自分と、今の自分の能力の違いにかなり気づいているのだと思います。 

現在診療所には、脊柱損傷でほとんど首から下が不随の患者さんが入院しています。かなり状態が悪く、片時も目を離せない状態です。この患者がつらそうにしていると、T君は飲み水のボトルを持ってそばに立ち、いつでも飲みたいときに差し出せるように準備しています。また、患者の家族が来たとき、患者さんの小さな弟の面倒もとてもよく見てくれます。様態が悪化した患者の世話のため、小さな子供は外で待機しなくてはならないときなど、ずっと手を握って、そばについてくれています。

 T君の回復力は素晴らしいものですが、彼が事故の前とまったく同じ状態まで回復することは、残念ながら不可能です。

しかし、T君の存在はグラフィス診療所にとって非常にかけがえのないものになっています。「彼は自分が大きな事故を体験した。だから患者の痛みが分かる」とピーター・リー所長は言います。交通事故によって体が麻痺してしまった20代の女性。彼女のつらさを最も近いところで理解できるのは、家族でも診療所スタッフでもなく、おそらくT君でしょう。

 T君が寝たきり状態にあったとき、彼を引き取って治療を続けることができたのは、グラフィス診療所という建物があり、そこで働くスタッフがおり、適切なケアを提供できるだけの薬品や資機材があったからです。彼の素晴らしい回復を助け、そして現在も続く彼の努力を傍で見つめ、応援できる、グラフィス診療所という場所をここに作ることができた事。これを支援くださった多くの支援者の皆様に、改めて感謝せずにはおれません。

 グラフィス診療所では、9月よりT君をスタッフとして雇用しています。T君の家族は彼をとても愛しており、その回復を心から喜んでいます。ですが、T君の家族は決して裕福ではなく、将来ご両親が年老いた後、もしくはT君が病気になったときなどに彼を支える手段を考えておかなくてはなりません。現在診療所スタッフの給与を支援してくれている学生医療支援NGO「GRAPHIS」が、T君への給与支援もサポートしてくれることとなりました。毎月30ドルをお給料としてT君に出し、それをすべて貯金して将来に備えることになります。

 この回復ストーリーはこれで終了しますが、T君のグラフィス診療所での活動は、これからも続きます。

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<写真:他の患者の手の運動を手伝うT君>


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